第二章 10
「や~っと追いついたー」
声の主を探そうと、傭兵も植人もマリソルたちも、そちらの方を向いた。村の入り口のわずかに奥、街道からであった。
一頭の馬が引く小さな小さな馬車が、街道に止まっていた。御者の座台から、キラリと何か光るものが動く。
パンッ
乾いた音がしたと思ったら、傭兵の一人・イニゴが膝から崩れ落ちた。ズボンの腿に穴が開き、そこから夥しい血が流れている。
キラリと光ったのは、一度ではなかった。ヒュンッヒュンッという鋭い音とともに、ブラスの腿に、カジョの足に、ナイフが突き刺さる。
パッカパッカと馬が歩く音が聞こえ、その馬車が外灯の傍へと歩み寄る。
小さな馬車は、三、四人が乗れるくらい幌馬車だった。その御者の席に、片手銃を持った若い男が座っている。二十代半ばだろうか、こげ茶の短髪に赤茶色の瞳、旅の装いをしているが、それが上等な服であることは誰しもがわかった。少し筋肉質の腕は銃を持ち、まだ狙っていないヴェルデへと真っ直ぐに向いていた。
その後ろの馬車の入り口に、同じく二十代半ばほどの金色の目の女性が座っている。長いヴェールを被り、ゆったりとした服を着た姿は、どこか狙われている植人と重なるものがあった。しかし、その手には投げナイフが持たれ、先程、傭兵に向かって投げたのは彼女であることがわかる。
「何? ピンチだった?」
銃口をヴェルデに向けたまま、その男は右肩を怪我したディノへと視線を向ける。
「ヘラルド!」
怪我をした傭兵は、突如現れた救世主をそう呼んだ。オーフォの街に屋敷を構えた、彼の、そしてフェリクスの友人である。
「この人!?」
突然の攻撃に呻いている敵たちを尻目に、マリソルは驚きの声を上げる。これが屋敷の使用人がひと癖あって、恋人と旅行に行っていた人物か!と、言わんばかりだ。
「形勢逆転?」
馬車を下り、片手銃を構えた男――ヘラルド・カルバハルが軽い口調で呟く。
もう一人の女性――おそらく一緒に旅行に行った恋人だろう――は、馬車の幉(たずな)を握り、街道へと退いた。もしも馬に怪我をさせたり、馬車を乗っ取られたら大変だと思ったのだろう。
ヘラルドの銃口は、ヴェルデを捉えたまま、彼は面白そうに口の端を持ち上げた。
「どこの奴ら? って、俺、君に見覚えあるんだよねぇ~」
ニヤニヤと笑うヘラルドを、標的にされている植人は睨みあげる。
「アルマス商会の植人さん?」
次の瞬間、ヴェルデが外套の裏から、ナイフを投げた。
「ぅわっ!!」
引き金を引く前に、ヘラルドはその場に転げてナイフを避ける。
馬車の方角から、キラリと投げナイフが、青年に向けて飛んできた。それはヴェルデの足にわずかに当たり、そこから血と水のような液体が流れ出た。
ヴェルデが、また仕込んでいたナイフを投げる。今度は、馬車の馬に向かって。
キンッ
という音を立てて、馬車にいた女性のナイフと当たり、馬を狙撃することはできなかった。
その間に、植人の青年は消えていた。おそらく不利だと踏んで、逃亡したのだろう。足をまともに狙われ、動けない傭兵たちは、その場で痛みに喘いでいた。
「どうしよっか? ぐるぐる巻きにしちゃう?」
「縄ならあるよ」
ヴェルデがその場から離れたことを察知した女性は、縄を恋人の方へと投げてよこした。
「どうして、ここへ?」
突然の出来事に、ディノもマリソルも事態が飲み込めないでいた。
その間に彼らは傭兵たちを気絶させ、武器を奪い、縄でぐるぐる巻きにしていた。