第二章 04
暗い。まだ昼間だというのに、厚い灰色の雲が空を覆い、まるで夕方のような明るさだった。
オーフォの街から南東に走る街道で、三人の男が馬車を止めている。三人とも腰のベルトに剣を差し、傭兵の恰好をしていた。
「おい! こりゃぁ、どこに行く馬車だ?」
止められたのは、古い幌馬車。馬もダルそうな目をし、虫にたかられた三流だ。幉(たずな)を握る男は、少し訛った言葉遣いでこう告げた。
「こりあ、レングアっつぇ村行く乗合馬車だ」
レングアというのは、オーフォからまっすぐ南東にある小さな村だった。この街道沿いにある。
農村など小さな村から首都や街に来る時は大抵、乗合馬車を使う。それで農民は安く都会に出ることができる。帰りも同じだ。貴族や商人は個人で馬車を保有していることが多いので、これを使うのは主に路銀の少ない旅人や農民だった。
「ちょいと失礼」
三人の傭兵のうち背の小さな男が、ひょいと馬車の上に乗り、中を覗いた。数人の農民と旅人が、クッションもない床の上に各々座っている。
「カジョ、どうだ?」
幌馬車の前に立ちはだかる男が、中を覗いている傭兵――カジョに、問いかけた。
「ダメだ、イニゴ。暗くて顔も見えねえ」
幌の布は白色だったのだろうが、雨風に晒され薄汚れている。その上、もう日も暮れ始めたかのような薄暗い天候だ。明かりもなしに乗客の顔を見ることは、なかなかに困難だった。
イニゴと呼ばれた傭兵は、イライラと足で土を叩く。
二人のやり取りを見ていたもう一人の傭兵が、呆れたように言った。
「ド派手な金髪で、ド派手な化粧の、娼婦みたいな服着た女だぜ? 明かりがなくてもわかるだろ?」
「それだったら、いねえけどよ……」
確かにその言葉通りの人物だったら、明かりがなくてもわかるだろう。そして、その外見の者はいない。
じゃあ、いいか? カジョは思い、もう一度、乗客たちを見回した。農村に戻るような女、貧乏傭兵らしい男、あと――
「おい、そこの女」
指を差されて呼ばれたのは、フードを被った少女だった。膝上のチュニックワンピースに、細身のジーンズとブーツを合わせている。羽織ったボレロのフードを被っていたため、この明るさの中では髪や顔が確認できないのだ。
「フードを取れ」
カジョの言葉に、彼女はフードを取った。途端に、長い黒髪が零れるように現れる。
暗くて見えないと思ったのだろう。立ち上がり、傭兵のそばへと歩み寄る。
フードの下に隠れていた青い瞳は、カジョを真っ直ぐに見つめていた。十五歳くらいの娘だろう。金髪でもなければ、化粧をしている様子もない。素朴で可愛らしい少女が、そこにいた。
「あたいのこどですか?」
訛った言葉に、カジョは違うと確信した。そういう特徴は聞いていない。
「もういい。行け」
少女は、顔を伏せた貧乏傭兵の隣に座りに帰った。
「これは違うな、イニゴ」
馬車から飛び降り、三人の傭兵は乗合馬車に道を譲る。
「邪魔したな、おっさん」
御者の男は不快感をわずかに出したが、何も言わずに幉(たずな)を操り、馬車を走らせ、通り過ぎた。