第一章 09



 「あぁ、あのヒルベルタ・ファッションの子……」
 一方、ディノは繁華街のレストランやカフェに、片っ端から聞き込みをしていた。ヘラルド邸の前に、マリソルが現れなかったからである。待っていてもよかったが、何か危険が身に迫る前に探し出さなければならなかった。もし、もし万が一アルバイトが決まっていても、辞めさせたかったし。
「さあ、どこ行ったかまでは……」
 テラス席のある洒落たレストランのフロアマネージャーは、無情にも手をひらひらと横に振った。この辺りに来たことがわかっただけ、よしとしなくてはならない。
 通りに出ても、マリソルの姿はない。あんなに目立つ容姿なのに、探そうと思うと見当たらないのだ。探している場所が悪いのか、行き違いで屋敷の前で待っているのか……?
 通りで溜息を吐いていると、恰幅のいい中年女性が近づいてきた。
「さっきから誰か探してるみたいだけど、それって若い女の子?」
 一筋の希望の光だ。ディノは何度も首を縦に振る。
「そうそう、奇抜な若者の服装の」
「派手な金髪の」
「そうそうっ!」
 マリソルだ! 彼は確信した。この街に来て、同じような容貌の少女を見たことがない。
 女性は侮蔑にも似た呆れを含んだ視線を、ディノに投げかけた。
「二人組の男についていったよ」
 ふと嫌な予感がした。しかし、あの、人を見分ける瞳を持つ彼女である。そう易々と危険についていくはずが――
「確かあれは、『ラモ』って娼館の奴らじゃなかったかねえ」
 娼館!
 男の心臓が、爆発的に鼓動した。それなのに胸はひやりと冷たい。そんなところに連れ込まれたら、身売りさせられるに決まっている。元の世界に出られなくなるんだぞ、くそっ!
「お姉さん、場所わかる?」
 『お姉さん』に気を良くしたのか、中年女性は頬を緩める。
「いやだ、もう! わかってることだよ、自分の年なんて」
「いいから、場所!」
「『花売り通り』の南の外れだよ」
「ありがとう!」
 礼を言う頃には、ディノは既に走り出していた。
 本格的に娼館で働かされることになる前に、救い出さなくては……。
 間に合ってくれ!!
 未だに冷たい胸の中で、彼はそう祈らずにはいられなかった。