第一章 06
オーフォの街の中心部には、公共施設が多く集っている。その中の郵便局から出てきたディノは、通りをはさんで向かいにある国際銀行の扉を開いた。
メーティス王国には王立銀行の他に、世界の全ての貨幣を取り扱う国際銀行が存在する。どの国からも、どの文化からも、どの宗教からも中立である、という売り文句の国際銀行は、他種族のみならず、人間(ネイミ)の商人もよく利用していた。ディノも王国主義者ではないので、王立銀行ではなく国際銀行を利用している。
扉を開いて中に入ると、人間の他に幾人かの他種族もいた。主に鱗甲人(リプティール)だ。隣国のウンガスとの緊張状態や、ルクシルヴァの滅亡、はたまたここが内陸であることから、獣人(マンマリャ)、植人(フランタ)、魚人(ピッシ)は見かけない。また鳥が進化した『半端モノ(レタツォ)』の鳥人(エイヴス)は、独自の国を作り外へ出てこないため、この王国内のみならず、他の国でも見かけることは、まずない。ディノが奥へ進んで受付へ向かうと、そこにいたのも鱗甲人の銀行員だった。
トカゲが進化した鱗甲人なのだろう。全身は鱗が覆い、細面の顔の大きな切れ長の目が、こちらを見ている。瞼に皺が寄っているからだろうか、人間には眠たそうに見えるが、決してそうではないだろう。
「こんにちハ、お客様。ゴ用件は?」
長い舌によりやや巻き舌な発音だが、聞き取れなくはない。
ディノは懐から、一枚のカードを取り出した。青い透明な鉱石でできたカードに、銀色の文字で番号が書いてある。普段使うものではない。特別なカードだ。
「この口座から、金を引き下ろしたい」
受付の鱗甲人は、長い爪と長い指でそれを受け取り、カウンターに設置された板に、そのカードをセットした。手のひらより少し大きいくらいの板で、カードと同じ透明な青い鉱石でできている。その上部の窪みにカードを設置すると、「どうぞ」の意味をこめて、受付は手でそれを指し示した。
ディノは、その板に向かって右手を差し出す。触れるか触れないか、その辺りまで近付けた時、板が淡く光り出し、その光が彼の右手へと移って行った。その光は彼の全身を駆け廻ると、再び右手に戻り、そこから板の中へ吸い込まれた。
板を裏側から見ていた受付の鱗甲人は、
「はい、ご本人様と認証されました」
と、板の上部からカードを引き抜き、それをディノに返す。
彼は窓口に置かれた用紙に引き下ろしたい金額や、紙幣の枚数を書き込むと、それを受付へと渡した。鱗甲人はペンでチェックを入れながら、それを奥の会計へと回す。
本当は使う予定のなかった金だ、とディノは心中呟いた。それがこうして使う機会を得たのだから、いいじゃないか。そう納得させる。口座には随分な金額が入っていた。だから、アルバイトなどしなくていいのだ。少し高めの宿をとって、そこからあまり出ずにヘラルドの帰りを待てばよい。
会計から回ってきたのは、王国紙幣で一万オロー。これだけあれば、しばらくはオーフォに滞在できるだろう。まだ口座には残金がある。それに頼るのは、決して悪いことではない。
――それでいいよな、フェリクス。
紙幣を大切に懐の財布にしまうと、ディノは受付を後にした。背後から「またのオ越しヲお待ちしていマス」の声が聞こえる。
国際銀行を出ると、オーフォの街だった。人間と、奴隷の植人のいる、メーティス王国の街だ。
とにかく、マリソルのアルバイトをやめさせよう。いくら服を買わせても、あの少女は言動が目立つし、髪だってまだ金色だ。否が応でも見つかってしまうだろう。
くそ、ヘラルド早く帰ってこいよ、と思いながら、ディノはとりあえず、その友人の家へ向かった。約束の待ち合わせ場所だ。