序章

 懐かしい夢を見た。確か七歳の時のことだ。
 両親に連れられて行った王宮で、面倒を見てくれた貴族の青年がいた。十歳は年が離れていただろうか。燃えるような赤い髪の人だった。少し女性的な綺麗な顔をしていて、儚い印象を抱いたことを憶えている。
 父は仕事、母は夫人同士でお茶会。他にも子どもはいたような気がするが、私が憶えているのはその赤い髪の人だけだ。
「お父上とお母上がいなくて寂しい?」
 ふくれ面をしていた私に、その人はよくそう問うた。そりゃ、七つの子どもが両親と離れていれば、そう訊ねるだろう。
「父さまと母さまは、いつもいないもの」
「どうして?」
「……弟の面倒を見てるから」
 長子である私が女だったので、両親は弟の誕生を、それはそれは喜んだ。彼らや使用人が弟の世話をする中、私は同じ年頃の村の子どもと遊ばされた。私は彼らとたちまち仲良くなったが、彼らは王宮にはいない。
「でも弟さんはこれから、おうちのために、たくさん頑張らないといけないんだよ?」
 そう言う青年は、少しだけ目を伏せた。何か私の知らないことを考えているようだった。
 小さい私にそんな理屈が通じるはずもなく、ふくれ面のままだったと思う。
「だって、みんな忙しくて、私ヒマだもん」
「じゃあ、好きなことがたくさんできるね。いいなあ、羨ましい」
 その言葉を聞いて私は、なんて頭が良いんだろう、と目を輝かせた。そうだ、後で叱られるようなことをしなければ、両親がいないところでお菓子をたくさん食べても、畑の果物をもらっても、裸足で駆け回っても、何をしてもいいのだ。
「そうよね。そっか、そうなんだあ」
 尊敬の眼差しをその青年に向ける。だけど、私はすぐに次の疑問がわいた。
「でも好きなことがなくなっちゃったら、どうするの?」
「また探せばいい。それでも見つからなかった時は、僕が一緒に遊んであげるよ」
 それまで一緒に遊んでくれないんだろうか、なら早く好きなことがなくなるといいな、と子ども心に考えた。
 それから、その人が頭を撫でてくれたことを憶えている。
 その人の笑顔が眩しかった。儚くて、綺麗で、幼心にドキドキした。
 その笑顔がゆらりと揺れて、夢は終わった。わずかな寂寥感を覚えて、私の意識は現実へと戻った――